5.せきは止めなきゃいけないの?

せきには「タン」の排出を助ける大切なはたらきがありますので、むやみに止めてしまわないほうがよい場合があります。タンを伴う咳(湿咳:しつせき)とタンを伴わない咳(から咳)に分けて判断しましょう。

 

タンを伴うせきは、かぜのひき始めからピーク時などによくみられます。このような時期には気道の粘液がさかんに分泌されてウィルスや細菌をからめとり、どんどんタンがつくられています。せきの力をかりて、ウィルスや細菌をタンとともに排出しましょう。つまり、タンを伴うせきは止めてしまわないほうがよいのです。ただし、せきが続くとエネルギーを大きく消耗してしまいます。せきの症状が激しいときは、体力を消耗しないよう、せきを抑えてあげましょう。また、横になると気道が圧迫されて狭くなり、タンなどの刺激を受けてせきが出やすくなります。夜のせきは睡眠のさまたげとなり、回復を遅らせてしまうことがあるので、夜間は睡眠を優先し、できるかぎりせきを止めてあげましょう。

 

タンを伴わないせきは、かぜが治りかけているころから現れることがあります。炎症をおこした気道がちょっとした刺激で過敏に反応している状態で、タンを排出するためのせきではありません。できるかぎり止めてしまうほうがよいでしょう。

 

湿咳、から咳を問わず、せきを伴う疾患は数多く、対応が遅れると重大な結果を招くおそれがあります。せきの症状が長引く場合には、早めに専門医に相談することが大切です。

6.せき止め薬はどう効くの?

せきをおさえたいとき、一番確実な方法はせきのくすりを飲むこと。のどあめをなめる人もいるようですが、せきを止める成分の入った医薬品でなければ効果は期待できません。では、せき止め薬にはどのようなものがあるんでしょうか?

 

気道が刺激を受けると脳(せき中枢)に信号が伝わり、せきをして異物を排出するよう指示が出されます。せき止め薬には、せき中枢に作用するタイプと気道に作用するタイプの2種類があります。

 

せき中枢は刺激に反応して「せきを出せ」と指示するところですが、せき中枢に働くタイプの成分(コデインなど)は、せき中枢の反応を鈍らせる作用をもっています。この反応が鈍ると、弱い刺激ではせきの指示が出されないようになり、結果的にせきを抑えることができます。

 

また、かぜやアレルギーで気道が炎症をおこすと、はれて気道が狭くなり、タンや異物の刺激を受けやすくなります。特に気管支(気道が左右の肺に分かれる部分)に働くタイプの成分(エフェドリンなど)は、気管支を広げて通りを良くする作用をもっています。気管支が広がると、タンを出しやすくなるだけでなくタンなどによる刺激もやわらぎ、せき中枢に送られる信号が弱まってせきが出なくなるのです。

7.せき止め薬はどう飲むの?

せき止めの成分は、市販のかぜ薬やせき止め薬に配合されています。一般に、中枢に作用する成分と気管支に作用する成分の両方が組合わされ、優れたせき止め効果を示します。さらに、タンを分解して薄める成分(去痰剤:きょたんざい)が配合され、気管支を刺激してせきの原因となるタンを出しやすくしてくれます。

 

熱やせき、のどの痛みなどかぜをひいてさまざまな症状が同時に現れたときには総合感冒薬を服用するのが一般的ですが、せきの症状だけが残ってしまうような場合があります。こんなケースでは、不要な成分が入っていないせき止め薬に切りかえて治療するのが理想です。

 

かぜ薬やせき止め薬は、かぜに伴う苦痛な症状をおさえてくれます。かぜ薬と同様に、せき止め薬にも眠けをもよおす成分が配合されていることがあるので、車の運転をする時などは特に注意が必要です。その他、薬の飲み合わせなど思わぬトラブルを避けるため、服用の前には必ず添付文書の「注意」を確認しましょう。また、薬を服用してもせきの症状かせ長引く場合には、医療機関を受診し、原因を確認することが大切です。

8.せきの知識 まとめ

せきはタンの排出を助ける防衛本能

タンを伴うせきはむやみに止めないほうがよい

激しいせきはおさえる
睡眠時のせきはおさえる

からせきは止めたほうがよい

せきを抑えるには医薬品が有効

眠気など添付文書の「注意」を必ず確認する

せきが長引く場合は医療機関を受診する

トピックス:市販の生薬

市販のかぜ薬やせき止め薬には、せき止め成分として生薬が配合されたものがあります。生薬は自然の植物や動物を乾燥させたもので、経験的に効果が確認され、医薬品として使用されています。せき止め成分としては、マオウ(麻黄)や南天実(南天の実)が、また去痰成分としては、キキョウ(桔梗)やセネガ(アメリカ産の多年草)などがよく知られています。

 

生薬にはさまざまな物質が含まれていますが、どの物質が効果を持つのかを調べる研究が進められています。最近では武蔵野大学が南天実エキスに関する研究成果を発表し、気道を拡げる成分(ヒゲナミン・ナンテニン)が含まれていることを解明しました。

転載:「おかあさんの保健ノート せきのお話し」
監修:日本学校保健会/慶應大学医学部呼吸器内科副島研三
発行:株式会社アルティナ

 

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