1.どうしてせきがでるの?

せきは体を守る防衛機能です

 

ちょっと古くなったものを食べて吐いてしまったり、下痢をしてしまった経験はありませんか? 人の体には有害なモノを見つけると体外に出してしまおうとするはたらき(防衛機能)が備わっていて、嘔吐(おうと)や下痢(げり)もそのひとつなんです。

 

同じように、のどの奥から肺までの空気の通り道(気道:きどう)に備わった防衛機能がせきなんです。私たちは肺で酸素を取り込んでいますが、外の空気をそのまま呼吸しているために気道に異物が入り込んでしまいます。小さな異物は気道で分泌されている粘液にからめとられ、タンとして口から捨てられます。ホコリだけでなく、細菌や毒物などが肺から侵入するのを防いでいるのです。また、気道を強く刺激する大きな異物や有害な物質が入り込むと、瞬時に排出しようとしてせきが出ます。煙を吸い込んでしまったり、飲み物や食べ物が間違って気道に入ってしまうと激しいせきが出ますが、気道の防衛機能が働くからなんですね。

2.かぜをひくとでるせき

かぜは、ウィルスや細菌などが原因の感染症です。11の症状があるといわれていますが、鼻みずや熱、せきなどがかぜの症状としてすぐに思いつきますね。かぜをひいたときにせきが出るしくみについてお話ししましょう。ウィルスや細菌などに感染すると、気道が炎症をおこします。炎症をおこした気道は粘液をどんどん分泌して、ウィルスや細菌をからめとり、体外に排出しようとします。たくさんの粘液(タン)が気道にたまると、気道を刺激してせきが出ます。せきのおかげでタンといっしょに病原体を排出することができるんですね。

 

*細菌は目に見えないほど小さく、ウィルスはさらに小さな生物です。体に侵入して数が増えるとさまざまな病気を引き起こすので、病原体(病原微生物)と呼ばれています。

 

また、熱が下がってタンも出なくなったのに、せきの症状だけが残ってしまった経験はありませんか?こんなケースでは、気道の炎症が完治していないと考えられます。炎症を起こした気道は小さな刺激にも敏感になっています。冷たい空気や少量のほこりなど、ふつうなら何でもないような刺激でもせきが出やすくなっているんです。気道の炎症が治まると、せきはとまります。せきの症状が長引く場合には、重大な疾患に発展しないよう早目に医療機関に相談しましょう。

3.かぜじゃないせき

かぜ以外にもせきの出る病気があります

 

百日ぜき
最近、テレビや新聞で話題の百日ぜきは百日咳菌に感染して発症する感染症です。三種混合ワクチンによって患者の数は減少していましたが、ワクチンの効果が薄れた成人になって感染する人が増え、200人の大学生が集団感染する事態がおこって問題になっています。

 

せき喘息(せきぜんそく
せきの出る疾患として気管支喘息が知られていますが、喘息特有のゼィゼィ、ヒューヒューという呼吸症状(喘鳴:ぜんめい)があらわれない「せき喘息」という病気が注目されています。ベッドの下にはえたカビの胞子や家のホコリ、ダニ、花粉などが原因で気道に炎症がおこり、長期間せきが続く疾患です。

 

COPD
たばこを吸っている人に多いので、「たばこ病」とも呼ばれる「慢性閉塞性肺疾患」のことです。気道や肺に慢性の炎症がおこって呼吸機能が低下したり、酸素を取り入れて二酸化炭素を排出する部分(肺胞:はいほう)が壊れて機能が低下する疾患です。気道に炎症がおきているのでせきが出やすく、かぜがなかなか治りません。また、酸素を取り入れる機能が低下しているので、すぐに息切れしたり、階段や坂道が辛くなったりします。

 

その他、がんや結核、肺炎などでもせきを伴うことがあり、注意が必要です。

4.せきってどうして苦しいの?

せきのパワー

 

せきによって吐き出される空気(呼気)のスピードは新幹線並みといわれています。時速300km、風速になおすと80mにもなります。台風をはるかに超える強い風で、のどの奥にはりついたタンを吹き飛ばしてくれるんですね。空気(呼気)をためた肺を強い力で一気に収縮させ、爆風のように空気を吐き出すのがせきの仕組み。肺を強く圧迫するために激しく筋肉が収縮します。その時のチカラは、お年寄りだけでなく若い人でもせきでろっ骨を折ってしまったという報告があるほどです。

 

1回せきをするために必要なエネルギーは2キロカロリーといわれています。1日に1000回せきをすると2000キロカロリーものエネルギーを消耗してしまいます。くしゃみや発熱があると、さらにエネルギーを消耗していきます。かぜの時には体力を消耗しないようせきを適切にとめたり、消耗したエネルギーを回復できるよう、十分な栄養補給を心がけましょう。

転載:「おかあさんの保健ノート せきのお話し」
監修:日本学校保健会/慶應大学医学部呼吸器内科副島研三
発行:株式会社アルティナ

 

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